日本の「福祉国家」に関するノート(1)

金子勝(1999)『市場』岩波書店より*1

金子は現在の日本の政治的状況について、「社会民主主義が未形成なままニューライト的な市場原理主義が闊歩」*2していると述べ、55年体制における社会党が「平和主義」を強調したがゆえに欧米の社会民主主義政党的な役割を担うことができなかったことを指摘した上で、従来の日本の「福祉国家」の特徴について以下の3つに言及している。


(1)横断的労働市場を基盤とした労働者階級・労働組合を背景に据えるコーポラティズムの未発達

社会党がコーポラティズムを「修正主義」と批判したことや、企業別・地域別の既得権に縛られて一元的な福祉制度の要求を行うことができなかったことが要因

(2)「福祉国家」的平等の論理の、階級・階層間格差是正(垂直的平等)から職種間・地域間の格差是正(垂直的平等)への読み替え

個人が熟練を所有する制度が脆弱であり、労働者階級やそれを代表する強固な社会民主主義政党が未発達であったことが要因

(3)持家取得の「自助努力」を促す税制と政策金利の重点をおいた土地・住宅政策

サッチャーリズムを先取りしたかのような公的住宅政策の欠如→企業社会の福利厚生の依存した持家取得のための資産形成


これらの指摘を踏まえると、やはり日本においては、新自由主義による公共部門の切り捨てが盛んになる以前にも西欧的な福祉国家体制は成立していなかったと見るのが妥当なようである。

*1:金子,70-75頁参照。

*2:金子,70頁。